2006/10/15 10:44:15: 感想: 『クジラのソラ 01』

タイトル: クジラのソラ 01 (amazon)
作者: 瀬尾つかさ
絵師: 菊池政治
レーベル: 富士見ファンタジア文庫
出版年月日: 2006-09-20
ASIN: 4829118628
いやこれは良いものです。読んでいる最中は、ずっとわくわくしてページを繰っていました。でもこれSFだし、楽しんでいるのは少数派かも……と思っていましたが、tonboさんが絶賛されていたり、ほかにも多くの方が高く評価しているのをみて、意を強くしました。ひょっとして結構受け入れられ要素はある?
それはそれとして、いちおう作品紹介なぞ。
10年前、圧倒的な異星人の艦隊の前に全面降伏した地球人。彼らに異星人『ゼイ』から課せられたのはたった一つ。≪ゲーム≫と、そのワールドチャンピオンは異星人の艦隊により宇宙に招かれるというシステム。そのためだけに作られる閉鎖小宇宙で艦隊をぶつけ合い、恒星を奪い合う≪ゲーム≫。そんな≪ゲーム≫に人々は熱狂し、その裏では異星人のテクノロジーのかけらを手に入れんとして政府が暗躍する。そんなSF世界を舞台にする物語。
……と自分なりに作品紹介もどきを書き始めてみましたが、冷静に考えればweb KADOKAWAの作品紹介ページをリンクしておけばそれで済む、という話も(苦笑)。
閑話休題。その≪ゲーム≫にさまざまなものを奪われた少女・桟敷原雫と少年・門倉聖一が出会うところから物語は動き始めます。
とにかくおもしろかったです。シリーズ開幕となるこの本では、あとで展開されていく(であろう)SF的な要素のパーツ・伏線をちりばめつつ、≪ゲーム≫で勝ち上がるために懸命に努力する少女・少年たちの姿を描くことを縦糸として、物語は進行します。
宇宙に旅立った兄を追いかける桟敷原雫は、≪ゲーム≫の能力で上を行くチームの仲間たちに嫉妬して、それでも折れずたゆまず努力を続けてゆきます。実はわたし、こういった話(キャラクター)にとても弱いです(笑)。自分の才能に限界を感じ能力を疑いそれでも努力を止めない彼女の姿は、とても魅力的(個人的に古傷をえぐられたり(苦笑))。
若き天才メカニックとして過去2度のワールドグランプリ優勝に立ち会った門倉聖一は、メカニックという立場であるゆえに一人取り残され、それでも再び≪ゲーム≫に関わってゆくことに。彼の感情が揺れ動くさまの描写も達者なもので、最初は半ば部外者的な立ち位置だった彼が真の意味でチームの一員となってゆくさまは、なかなか読ませます。
描写に割かれている文章の量は上の2人に譲りますが、チームメイトの枕井冬湖と小池智香も魅力的なキャラクター。続刊での、さらなる掘り下げを期待。
そしてこの作品のおいしいところは、SFとしても魅力的なところ。2chでは『エンダーのゲーム』を思い出した、との発言を見かけましたが、わたしはヴァーリの"八世界"を思い出したりしました。これは別に、直接似ている、ということではなく、作者が過去のSF作品から吸収したエッセンスが作品にちりばめられ、魅力的なフレーバーとなっている……ということだと思っていたりするのですが、どうでしょうか(弱気)。
異星人『ゼイ』・≪ゲーム≫・宙のかなたの"くじら"・リリック・アウターシンガー。このあたりのネーミング、いかにもSF、といったセンスで、それだけでわくわくしてきます。今後シリーズが続いてゆく中で、宇宙SFとしても魅力的に展開してゆくことを期待しています。
ということで、今後に期待大、な新シリーズ開幕です。万が一、ここを読まれて興味を持ったという方がおられましたら、ぜひぜひご一読を。