狼と香辛料 III

タイトル: 狼と香辛料 III (amazon)

作者: 支倉凍砂

絵師: 文倉十

レーベル: 電撃文庫

出版年月日: 2006-10

ASIN: 4840235880

 

いまさら感漂いまくりではあるのですが、再読して改めて「おもしろい」と思ったので感想を。ま、ほんとにいまさらのいまさらなのですが。

 

旅の道連れとなった、行商人ロレンスと齢経た狼の化身にして豊穣の女神ホロ。ホロの故郷、北の町ヨイツを目指してクメルスンの町にやってきた二人。おりしも町は、冬の大市と祭の期間。そこで出会った魚商人アマーティはホロにひかれ、彼女をロレンスの手から奪うべく、ある契約を迫る……。

 

感想を書くにあたって1巻・2巻と読み比べたわけではないので、あくまでも個人的な印象なのですが、支倉さん、めきめき腕を上げているように感ぜられます。デビューから1年も経っていないことを考えると、これはなかなかたいしたことではないかと。

たとえば今回のおはなしの縦糸(と思うのですが)、信用取引(信用売り)についての説明の部分など、とても巧妙かと思います。信用売りについて知識のないアマーティに対して説明することで読者に対しても説明をしつつ、その後の描写で読者に対して随時知識を提供してゆく。そして、知識の提供として充分な役割を果たしているのみならず、それをストーリーに絡めつつ提出することで、読者に「これからどうなるんだろう?」というドキドキ感を与えることにも成功しています。達者なものだと思います。

全体の構成もなかなか。序盤ではロレンスとホロの掛け合いを交えながらゆったりとした描写で背景世界の魅力を伝え、そこからアマーティのホロへの求婚というイベントを使って一気に緊張感を盛り上げ、おはなしの縦糸となる商売の駆け引きへとはなしを持ってゆく。そこから、ロレンスとホロとの関係という横糸を交えておはなしの緊迫度をさらに上げて行き、大団円に持ってゆく。一冊を通してのおはなしの流れが、とてもしっかりしているのです。ほんと、なかなか堂に入ったものです。

 

さて、このシリーズの大きな魅力は、ライトノベルではほとんど扱われたことがない(と思うのですが)商売・経済をおはなしの主軸に持ってきていることにあることは異論をまたないところであると思うのですが、横糸を成すロレンスとホロとの丁々発止のやりとりも、また大きな魅力になっていると思います。このやりとり、というか会話文はめっぽううまくて、含みを持たせたやりとりが、二人の間で交わされます。ま、ほとんどの場合ホロの方が一枚上手を行っていてロレンスはしょっちゅう"ぎゃふん(死語)"という羽目に陥るわけですが。

それにとどまらない会話文の妙については、安眠練炭さんが2巻の感想で的確な指摘をなさっているので、そちらを参照するのが吉。非常に読みごたえのある感想ですので。

 

そして本作では、二人の間の絆にも進展が。ロレンスがホロの大切さに思い至ってのセリフ、「私は、積み荷を諦めたくないのです。それを再び荷台に載せられるのなら、多少の無理は通します」にはなんというかこう……かゆくなると言いますか(笑)。でもいいセリフでしょう?

そしてホロ。いや、必死になっているロレンスを見て、さぞかしやきもきしたことでしょう。彼女にはそんな気はちっともないのに、ロレンスはすれ違いに気がつかず商売勝負に必死になるありさま。そりゃあねぇ(苦笑)。

でもまぁ、最後にはおさまるところにおさまるべきものがおさまっての大団円。ともあれ、これからの二人の関係と旅の行く末が楽しみなシリーズです。

 

で、これはなんというか一読者のわがままというかなんというか、というはなしなのですが。支倉さんにはこのあたりで、シリーズ外の作品を一本書いてみていただきたいなぁ、と。これ以外のおはなしも書けるところを示して、安心させてほしいというか。

要は、これ以外にもネタ出しができてモチベーションを維持できるということを見せてほしい、ということなんですけれど。余計なお世話は百も承知で。

別に舞台はなんでも。またしてもの中世ヨーロッパ風ファンタジーだろうがガチの中世ヨーロッパものだろうがSFだろうが現代学園異能だろうが(笑)。もっともこれだけの会話を書ける力を持っている人なのですから、あまり心配はしていないんですけれどもねー。<矛盾気味